何がキッカケだったかわからない。歯車が狂い始めたことに気づいた時には取り返しがつかない状況だった。
1. コミュニケーション
英文添削サービスは、インターネットを使った時空間を越えたコミュニケーションで成り立つビジネスモデル。テクノロジーは手段でしかない。動かすのは「人」である。
ガーナ側から添削結果や質問に対する回答がなかなか返ってこない。それもそのはず、ガーナはガーナで自分たちの本業がある。英文添削はあくまでも副業である。しかも通信環境は良いとは言えない。
加えて、ガーナ側のカウンターパートであるGD氏はアディドメに居る。アディドメにはインターネットはおろか電話すらない。
やっとの思いで電話会議を設定して各種調整をしようとしても、お互いの利害がぶつかり合い話が進まない。インターネット電話が無い時代、一分間の電話代は数百円。通信費だけで月間一万円を下ることはなかった。
2. 粗利率6割
商売をしたことがない私が生まれて初めて自分の提供するサービスの値段をつける。
粗利率6割
どこかのビジネス本に記載されていた。この粗利率に基づいて以下の料金体系を設定した。
売り値 300円/一件
仕入れ値 US1$/一件
粗利率は6割以上でありながら、他社と比べて圧倒的なコスト競争力がある。この価格設定で何の問題もないはずだ。最初はそう思っていた。
当時の院卒の初任給が20万円くらい。これを稼ぐためには、月間1000件の英文添削を処理しなくてはならない。一日30件強だ。しかも経費や休日は考慮されていない。
一日に10件をさばくだけでイッパイイッパイなのに30件/日は不可能だ。たとえ値段を2倍~3倍にしても大勢に影響は無い。
自分のビジネスモデルが間違っていたのか?
3. クレーマー
世の中は広い。自分が如何に恵まれた環境で育ってきたか、自分とは異なる意見を持っている人が世界にどれだけいることか、恐ろしいほど体験した。
「添削結果に満足しなければ入金しなくて良い」
後払いにすることで添削の品質に対するアリバイ作りをしていた。これでクレーマー対策は万全だと思っていた。しかし実際はそんな簡単な話ではない。あらゆる理屈と言いがかりを一身に浴びた。
2chの前身である「あめぞう」にも華々しくデビューさせられた。批判の言葉とともに。
4. 下降線
やらなければならないことは山積みされているのに、軍資金は底をつき、時間も足りない。
「苦しい時ほど周囲の声に耳をかそう」「原点に立ち返ろう」「悲観は気分、楽観は意思」「まわりと比較せず自分の昨日と比較せよ」
散々勉強して付箋だらけのビジネス書の言葉は全く役に立たなかった。
大学体育会で苦楽を共にした学卒の同級生は既に社会人5年目。一流企業で役職についている者もいた。彼ら・彼女らと話すのが辛かった。必死に「個性的で魅力的な自分」を取り繕うとするが、実が伴っていないので説得力がない。社会で揉まれている彼ら・彼女らにしてみれば戯言にしか聞こえていなかったのだろう。
身も心もボロボロになり始めていた。そして人と会うのが怖くなっていった。
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